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ドミノ肝移植

 はじめに臓器移植について考えてみますと、臓器移植は他人からある臓器すなわち健全な内臓の提供を受けて、自分の働かなくなった内臓と交換することです。その場合ふた通りがあります。つまり、死体あるいは脳死の人から内臓の提供を受ける場合と、生体すなわち健康な人から直接内臓の一部などの提供を受ける場合です。脳死の人からの提供が多い欧米諸国に比べ、臓器提供が行われ始めて日の浅い日本では、いろいろの理由から必要な臓器の絶対的不足があり、生体からの臓器提供による移植が主流となっています。そのうちで特に肝移植は生体からの臓器提供が行われていますが、臓器提供者ドナーは両親や兄弟や配偶者となっていて、この点でも日本的といえます。

 一方、この生体肝移植の対象となる特殊な疾患があります。それは家族性アミロイド・ポリニューロパシーと言われる病気で、肝臓で特殊な蛋白質を造り分泌して全身の臓器や神経組織に沈着します。そのため、手足の感覚がなくなって体が衰えてしまいます。その他の肝臓の働きは正常で、発症には20年以上掛かります。摘出したその肝臓は、他の重い肝臓疾患患者に移植することが可能です。摘出した肝臓を二つに分割すれば二人の患者に移植ができます。つまり摘出した肝臓を次々に移植することをドミノ移植と言うわけです。

 このドミノ分割肝移植は平成11年7月9日に京都大学の移植チームが世界で始めて行いました。第一段階は60代の兄から50代の弟の患者に肝臓の一部を移植し、取り除いた肝臓を二つに分割して、一つは40代の原発性胆汁性肝硬変の女性に移植されました。もう一つは10代後半の先天性胆道閉鎖症の女性に移植されました。先の二人の患者は生存していますが、三人目の女性はその後亡くなりました。平成12年の5月の時点で、国内で4回行われて優秀な成績を挙げています。しかしながら、これですべて解決したわけではありません。むしろ、いろいろ問題点が沢山あります。ことに、最初に生体肝移植を受ける患者に大きな危険性があり、十分な説明と同意は欠かせません。