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肝がん発生の予防対策

 肝がんを予防するには、その原因対策をしなければなりません。肝臓に生ずるがんの大部分はC型肝炎(70〜80%)から発生します。次いで、B型肝炎(10%)、最近ではNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が注目されています。アルコール性肝硬変や原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎も肝がんの原因になります。

 C型肝炎に対しては、経口抗ウイルス薬が実用化されていますので、C型肝炎と分かった時点で、この薬を服用する事でほぼ100%近くC型肝炎ウイルスを除去することが可能です。しかも、副作用は少なく、以前のインターフェロン治療と比較すると患者負担は大きく軽減されました。ただし、肝がん予防のエビデンス(科学的に証明されている)があるのは、インターフェロンだけなので、C型肝炎ウイルスを駆除したとしてもその後の定期的な経過観察が必要です。

 B型肝炎は、持続性B型肝炎状態が、肝硬変に移行する危険度を高くします。すなわち、HBV DNA陽性(B型肝炎ウイルスDNA検査が陽性)でALT高値(GPTと同じです)が持続する場合です。肝硬変になると、年率5〜8%で肝がんが発生します。そこで持続性B型肝炎の状態を改善し肝硬変にならないようにすることが治療目標です。すなわち、長期目標はB型肝炎ウイルスを完全に駆除してしまうこと(HBs抗原陰性化)ですが、C型肝炎のようにはいきません。治療効果は良くても30〜40%というのが現状です。そこで短期目標を設定して、少しでもウイルス量を減らして、持続性B型肝炎の状態を改善します。治療薬は、Peg-INF(持続性のインターフェロン)と核酸アナログ製剤(経口抗ウイルス薬)です。これらを用いて、①ALTを持続正常化(30U/L以下)し、②治療中のHBV DNAを陰性化し、治療が終了しても2,000IU/mL未満にすること、③HBe抗原(B型肝炎ウイルスが多いことを示す指標)を陰性化することを目指します。

 最近増加しているのが、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)です。NASHとは、その名の通りお酒を沢山飲まないのに、肝硬変、肝がんが発生(年2%程度)する病気です。男性で30g/日、女性で20g/日以上(ビール中瓶1本で約25g)摂るとアルコール性肝障害を生じますが、この病気はそれ以下で生じます。現在、この病気の治療薬はありません。減量が唯一の治療法です。体重を10%以上落とせば、NASHの改善がみられることが分かっています。それ以下でも肝硬変への進行を抑制することが分かっています。

 アルコール性肝硬変は、上記の通りアルコール多飲で生じます。休肝日などを設けて上記量を越えないようにすることが大切です。

 原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎は、その原因が不明でさることより予防対策を立てることは困難です。それぞれの疾患に対応する治療が取られます。

 

(最終更新:2019.1.7/鈴木悦朗)