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STD

  STDとは感染症の略で、性的行為によって感染する病気をいいます。従来は梅毒、淋病、軟性下疳と鼠径リンパ肉芽腫が四大性病と呼ばれていましたが、1970年代からアメリカを中心に性的接触によって感染する疾患を総括してSTDと呼び、細菌感染による四大成人病の他にクラミジア、ウイルス、マイコプラズマ、真菌、原虫、寄生虫によって起こる疾患群を全て含んだ総称として用いられるようになりました。

  例えばAIDSはウイルスによるもので、寄生虫による疥癬や毛ジラミ症、原虫による腟トリコモナス症、真菌による腟カンジタ症、クラミジアによる子宮頚管炎など日常診療でもよくみられる疾患です。

  STDが増加してきた背景には第二次世界大戦後の性の解放、ピルによる避妊法の普及、国境無しの性的交流の風潮、さらには社会的モラルの変化などが関連しているとわれています。梅毒や淋病が抗生物質の発達によって治療可能な疾患となったことが、性的モラルの退廃に拍車をかけたといえるかも知れません。しかし、最近では抵抗力の強い伝染性をもった梅毒症例や、色々な症状を見せる淋病も発生しつづけています。

  人間の歴史は多くの感染症との戦いに明け暮れてきました。がん、心臓病、脳卒中は近年の三大生活習慣病として注目されていますが、全世界的にはいまだに感染症が最も大きな人の生命の脅威であることは間違いありません。古代アッシリア人の紀元前10世紀の記録にも淋病についての記載があり、梅毒はコロンブスらによって新大陸からヨーロッパヘ伝播したといわれています。疫病やペストと違ってSTDは人間が人間に与る悲劇として、性的交渉を経由して伝染し、文化、生活様式、交通、戦争や侵略など多くの社会的条件がそれに大きく関わる特殊な病気といえます。

  特にAIDSの出現は「患者を発見し治療する」という従来の感染から発症までの期間がはっきりしない点で、考え方を根本から変えてしまいました。社会的なSTDに対する知識の普及と正しい予防の徹底が今ほど望まれる時代はありません。