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虫歯はうつりますか?

 今までに何人かの方に“虫歯はうつりますか”という質問をいただきました。虫歯は虫歯菌による感染症ですからもっともな疑問ですが、虫歯がうつったという話も一般的ではありません。答えはむづかしいのですが、うつるとも言えるし、うつらないとも言えるのです。

 お母さんのお腹を出たばかりの新生児の口の中はほぼ無菌状態です。腸内の細菌も棲んでいませんし、口の中に歯はなく虫歯菌もいません。それが1本、2本と歯がはえてくるに従い色々な細菌が口の中に棲み始め、その中に虫歯菌も含まれてきます。それらの菌は赤ちゃんのごく近い環境からうつったと考えるのが普通です。中でも育児に深くかかわっている人からうつったと考えられます。親からの影響が最も強いと考えられるため、ヨーロッパの研究者らは、子供の虫歯の予防をするためには妊娠した母親の生活や口の中のことから手を打たなければならないと言っています。

 それら厳重な予防方法を実験的に行った地域の子供の口の中に虫歯菌のいない子がわずかながら現れているという報告があります。虫歯菌がいないと甘いものをいくら食べても、歯磨きをしなくても歯周病などは別として虫歯に限っては心配ないということになります。これらの事実は虫歯が虫歯菌による感染症でうつるものだという証明になります。

 しかし一度口の中に細菌の棲み分けが完成した後では、例えば虫歯のひどい人とキスをしたことで他の人の虫歯がひどくなることはありません。また、大人になってからでは、どんなことをしても口の中に棲む多種類の細菌の中から虫歯菌だけを締め出すことも出来ないのです。生物の世界の不思議さと複雑さを感じます。虫歯は生命にかかわらない病気のため軽く見られがちですが、子孫に害を伝えないように自分の口の中の虫歯菌を減らすのと同時に、口うつしで赤ちゃんに食べ物を与えるようなことはさけるなど、先手、先手の虫歯予防を実践する必要がありそうです。