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エコノミークラス症候群

 飛行機を利用する時、上昇中又は着陸しようとする下降中は普通0.8気圧に調整されている機内気圧が変化して、耳が閉さがったような経験をもった方も少なくないと思われます。24℃前後に保たれている室内温度はエアコンの効いている限り安定していますが、機内湿度の方は飛行時間が長くなると20%以下に迄下がることがあります。飛行機の揺れによる空酔<そらよい>になったり、同一姿勢で長時間座ったままでいると、足に静脈血栓(飛行血栓症)をつくることが注目されています。イギリス下院の科学技術委員会はこれを「エコノミークラス症候群」と呼んで、飛行中のこういった障害が起こることの可能性をエアーチケットに印刷するよう勧告しました。

 これは「エコノミークラス症候群」として知られる深部静脈血栓症が2000年10月、オーストラリアから英国へ帰国直後死亡した28歳の女性に発症したことから注目されました。深部静脈血栓症とは下肢の深い部分を流れる静脈群が血栓によって閉塞して、血液が下肢にたまり、とどこおった状態で放置すると血の固まりを作ってしまいます。身体が開放され、動作と同時に身体全体の循環量が自動的に増え、その血の固まりが脳や心臓に移動して脳血栓や冠不全を起こすためだと考えられています。

 しかし飛行機の座席に関係なく、他の乗物や劇場の座席でも起こることから「エコノミークラス症候群」と呼ぶのが果たして適切かどうかは問題のあるところです。エコノミークラス以外でも起こること、車や船での旅行中にも起こることから、深部静脈血栓症、急性肺動脈血栓塞栓症と呼ぶべきでしょう。例えば下肢静脈瘤、下肢の手術後、けが、悪性腫瘍、肥満、経口避妊薬の常用、妊娠中と出産直後などの場合は長旅の乗り物を利用する前にかかりつけの医師に相談されることをお勧めします。機内ではゆったりとした服装でいること、アルコールとカフェイン以外の適度な水分の補給、着席中でも足を適度に屈折したり、化粧室に立ったりするなど身体を狭い場所に閉じ込めない注意が予防につながると思われます。