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デ・ジャ・ヴーってなあに

 デ・ジャヴーとはフランス語から来た言葉で、心理学や精神医学の分野で良く使われる表現です。既視感、既視体験という日本訳がありますが、外来語としてそのまま使われています。私達誰でも経験したことがあるはずですが、初めて見る情景なのに、すでにどこかで出会ったり見たことがあると感じることを言います。旅でふとみる美しい景色に見とれている時、美術館で素晴らしい絵画に魅せられている時など、こんな体験が過去にあったはずだがと思うことがあります。

 これに対し、ジャメ・ヴーは未視感と訳されていますが、すでに体験していることを、まだ未体験だと感じることを意味しています。

 記憶の誤りには、実際に起こらなかったことが、起こったかのように想われる偽記憶と実際に起こったことをまげたり、色づけをしたりしてしまうあやまり記憶とがあります。デ・ジャ・ヴーもジャメ・ヴーもともに記憶の誤りのうちのにせ記憶の典型例と言えます。

 初めての場所や光景をみた時にかつて見聞きしたとかあるといった想いにとらわれるのがデ・ジャ・ヴーですが、現実の一部と長期記憶して貯えられている知識のまとまりをスキーマといいます。その一部と現実とが部分的に重なり合ってスキーマ全体が活性化するために起こると考えられています。

 実際にあった話ですが、富士スピードウエイを200キロ近くの時速で走っている時、事故を起こしたレーシング・ドライバーが救出された時、次のようにいっています。10メートルぐらい空中に放り出され何回も横転した大事故でしたが、「ぶつかるなと思った瞬間、自分は死ぬか、大怪我をするだろうと思った。その後は何も感じなかった。自分はスタンドにいて友人の横転事故をみている。ガソリンが車に引火して猛煙につつまれる。救急車がかけつけ、黒こげのドライバーを救出する。それが自分であることに気が付いて非常に危険な状態あることはわかっていたといっています。

 人間の記憶は短期と長期の二種類があります。短期記憶は脳に入力された情報をたかだか20秒程度の間しか保存されません。短期記憶で処理された情報を知識として長期間にわたり保存しておくのが長期記憶です。長期記憶の貯蔵庫から必要に応じて情報が検索され、短期記憶として転送されるメカニズムの混乱がデ・ジャ・ヴーやジャメ・ヴーとして現れると考えられます。レーシング・ドライバーの体験は、危機におちいった心の動きとしてデ・ジャ・ヴー、ジャメ・ヴーの混在した一例です。