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法歯学をご存知ですか

 人が事故や事件で死亡した際に死亡原因や死亡時刻を特定したり、被害者の個人識別を行う必要があり、これらに関連した学問を法医学といいます。テレビドラマなどで題材として取り上げられて、比較的知名度の高い法医学ですが、この法医学の中で、特に口の周辺に関係する歯科的な事柄を取り扱うのが法歯学の内容です。

 人の体を構成している部分で個人識別をする方法では、指の指紋や血液型などが有名ですが指紋は自然環境や時間で失われる可能性が高く、血液型だけでは正確な個人識別をすることは困難です。こんな時にいろいろな環境的悪条件が重なり、長い時が経過して腐敗が進み、白骨化した場合でも破壊をまぬがれて残ることが多いのが頭蓋や顎の骨や歯を主とした骨格系で、先端技術のDNA鑑定とならぶ重要な個人識別方法です。

 特に歯は人間の体の中で最も固く丈夫であることと、形や歯並びなどの個人差が大きく明確であるために、他の条件が悪くなる程、重要性が高くなります。加えて、現代人において虫歯や歯周病は最も罹患率<りかんりつ>の高い病気であると同時に歯科医療も普及して、治療の痕跡や記録のない人は希です。更に個人に特徴的な治療痕とその治療を担当した歯科医のところに多くの情報が残されているという有利な条件を生かすこともできます。手がかりの乏しい遺体でも、治療記録やX線写真などとつきあわせて調べることで個人を特定することができます。白骨化している頭蓋骨に粘土を盛り上げて生前の顔貌を予想する復顔などと並んで、事件、事故の当事者の個人識別に大いに役立っています。

 実例としては昭和60年の夏に発生した「日航機墜落事故」が挙げられます。損傷がひどく細かく散乱してしまった520人にのぼる犠牲者の遺体の検視や身元確認のために法歯学の専門家が数多く協力し、歯からの情報が役立ったことが思い出されます。

 犯罪や惨事はいつ起こるかわかりません。法歯学の出番はないに越したことはありませんが、その存在を知っていただきたい学問です。