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エボラ出血熱(2014年の感染拡大=アウトブレイク)

 アフリカ大陸で1976年に発見されて以来、大陸の限られた地域で小さな流行を繰り返していた凶暴なウイルス感染症「エボラ出血熱」がパンデミック(世界的な流行)を起こしました。エボラ出血熱に関する学術的に詳細な記載は、多数ある専門性の高いウェブサイトでご確認いただくこととし、パンデミックに至る経緯とその後の対応に注目します。 

 

西アフリカでの感染拡大

 2013年の年末に西アフリカのギニアに端を発した「エボラ出血熱」は、ギニア保健省からの報告をもとに2014年3月には世界保健機関(WHO)によりエボラウイルスのアウトブレイク(大規模な集団感染)として公表されました。時を待たずに隣国のリベリアとシエラレオネでも感染者が報告され、8月の集計では疑いを含めた感染事例が約2000件、死者は約1100人に達しました。エボラウイルスの集団感染は記録上、過去20回ほど発生しており、発生地域はいずれも中央から北アフリカのウガンダやザイールでした。今回は感染者数、死者数ともに最大規模で、WHOは緊急事態を宣言しました。

 感染源(宿主)と疑われるコウモリを食べる習慣がヒトへの感染経路とみられ、死者の葬送習慣などにも感染の広がりを許した原因が考えられます。これほど多くの感染者を出すパンデミックが生じたのは西アフリカ地域の都市化で人々の往来が増え、活動範囲が広がる活発なモノ、ヒトの移動が誘因と考えられます。交通手段の発達は欧州や米国にまで感染者を運ぶ結果となりましたが、現時点ではそれらの地域にパンデミックが生じることは避けられています。

 

感染経路の変化はあるか

 インフルエンザやノロなどのウイルスが良い例ですが、遺伝子情報のみからできているウイルスの性質は速い「スピード」と「頻度」で変化を繰り返しています。エボラウイルスの場合、血液や排泄物との接触による感染が主ですが、これが空気を介する感染に変化することがあればパンデミックの広がりはより大きく確実となり、脅威は増すことになります。

 

ワクチン、治療薬の現実

 致死率などの悪性度は高いものの、アフリカ大陸で40年弱の間に、散発的に小さな集団感染を繰り返していたに留まる「エボラ出血熱」では、治療薬やワクチンの開発は営利を満たせないため、進展がありませんでした。今回の対策として未承認のまま利用された抗ウイルス薬には、米国のベンチャー企業が開発したZMapp(ジーマップ)と日本の富山化学(現在は富士フィルム傘下)の開発したアビガン®(ファビピラビル)が注目されていますが薬効の評価は定まっていません。日本の研究機関を中心としたワクチン開発も進行しており、製品化が待たれています。

 

パンデミック制御の国際協力

 西アフリカ諸国はビジネス経済的には急激な発展を見せているものの、「医療体制」や国民の衛生に対する「知識」、また、それらに対応する「設備」も全てが遅れています。古い因習やデマゴギーなども加わり、今回のパンデミックを助長する結果となっています。「国境なき医師団」などの国際NGO団体やアメリカ軍の活動、キューバの医師派遣などをはじめ、篤志家や各国家からの経済的支援も行われていますが十分とは言えない状況です。エボラ出血熱のパンデミックに対する対応は一部で「政治的」な駆け引きの種ともなっていますが、世界共通の脅威との認識を持ち、パンデミック終息に向けた努力を続けることが求められています。

 

日本の国内問題と今後の展開

 エボラウイルス研究とワクチンの開発を地道に行い、成果を上げている研究者が注目される一方、エボラウイルスのような危険性の極めて高い感染症病原体の研究や検査ができる「BSL4クラス」施設が、国内では一つも稼働していないという課題を抱えています。医療連携のシステム構築を柱とした厚生労働省の対応が現在進行中で効果的な防疫策、危機管理の充実が望まれています。

エボラ出血熱の国内発生を想定した医療機関における基本的な対応について(依頼)

厚生労働省検疫所(FORTH)ホームページ

 

 2015年2月26日現在、流行国3カ国(ギニア、リベリア、シエラレオネ)の感染者の数は、確定患者、可能性の高い患者、疑いの患者を合わせて23,781人、死者は9,637人の数字が示されており、最悪の感染者増加率を示した時期から比べれば改善されていますが、既述の通りウイルスの変異が起これば最悪のケースも考えられます。今後も長期にわたり関心を持ち、対策の更新と強化を続けることが求められています。

*2015年2月27日 エボラ出血熱の発生状況(第8週):補足より

 

(最終更新日:2015/3/1)